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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)1313号 判決 1985年8月29日

原告

トキコメンテナンス株式会社

右代表者代表取締役

福島二郎

右訴訟代理人弁護士

岡部眞純

高橋達郎

被告

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

松多昭三

被告

日新火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

藤澤達郎

被告

千代田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

川村忠男

右三名訴訟代理人弁護士

中垣一二三

針間禎男

綿島浩一

北野幸一

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

本件訴は、昭和五八年二月一九日午後三時頃、神戸市長田区細田町一丁目四番九号所在の訴外株式会社加藤商店の本社工場で発生した火災事故にかかわる損害賠償債務について、本件原告から本件被告らに対しその不存在確認を求めるものであるところ、本件被告らは、本件訴提起前の昭和五九年一二月一三日、大阪地方裁判所に本件原告ほか三名を共同被告として、同一火災事故に基づく損害賠償請求の訴(同裁判所昭和五九年(ワ)第九二三五号事件)を提起していることが認められるから、本件訴は、すでに本件被告から本件原告に対し、同一請求権に基づく給付訴訟が係属しているにも拘らず、本件原告が、本件被告らを相手方としてその不存在の確認を求めて提起したものであつて、二重起訴に当ることは明らかである。

尤も、本件原告は、本件訴提起に先立ち、昭和五九年九月四日、東京簡易裁判所に、本件被告らを相手方として、本件訴におけると同一債権の存否を確定し、これが存在する場合には、本件原告は本件被告らに対し、その相当額を支払うとの調停申立(同裁判所昭和五九年(ノ)第二四一七号事件)をなしたが、右調停は昭和六〇年一月二九日不調に終つたため、右調停不調の日から二週間以内の日である同年二月九日、本件訴を提起したものであるから、民事調停法一九条の定めにより、本件訴は右調停申立の日である昭和五九年九月四日に提起されたものとみなされることとなる。

従つて、右日時を基準とすれば、本件訴は、大阪地裁に提起された前記給付訴訟に先行することとなるが、民事訴訟法二三一条にいう事件の係属とは、裁判所が事件につき現に判決をするために必要な行為をすべき状態にあることをいうものと解すべきところ、民事調停法一九条の定めは、出訴期間の遵守、出訴に伴う時効中断等の利益を慮つて、調停利用者の保護のために設けられた規定にすぎず、これにより、当然に右訴提起の日とみなされる日から判決手続が存在していたとの効果の発生までを認めるものではないと解すべきであるから、右調停先行の事実は何ら前記結論に消長を及ぼすものではない。

よつて、本件訴は不適法であるから、これを却下し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官落合 威)

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